日本一行きやすい3000m峰、乗鞍岳の魅力に迫る
3000m級の山と聞くと、誰もが経験豊富な登山家向けのハードな場所を想像しがちかもしれません。しかし、日本のほぼ中央に位置する乗鞍岳は、そんな常識を覆す、「日本一行きやすく魅力に富んだ3000m級の山」として知られています。
「乗鞍スカイライン」「乗鞍エコーライン」を利用すれば、標高2700mの畳平までバスで気軽に到達できるため、小さなお子様から体力に自信のない方、シニアの方まで、誰もが大自然の醍醐味を気軽に体感できるのが最大の魅力です。
今回は、そんな乗鞍岳がもたらす「天空の世界」の楽しみ方をご紹介します。

壮大な山岳体験を、誰もが気軽に!多様な登山コースの魅力
乗鞍岳は、主峰である剣ヶ峰(標高3026m)をはじめとする23の峰、7つの湖、8つの平原で形成された火山からなる山です。そのたおやかな山容自体が魅力の一つとされています。
畳平からアクセスする登山コースは、初心者から上級者まで、体力や好みに合わせて選べるのが特徴です。
- 最高峰「剣ヶ峰」への挑戦
- 初心者も安心!手軽に楽しめるサブピーク
- 魔王岳(標高2760m)
- 大黒岳(標高2772m)
- 富士見岳(標高2812m)
畳平から約90分(片道)で到達できる剣ヶ峰は、乗鞍岳で最も人気のあるルートです。
古くから信仰の山として崇められてきたこの峰への道中では、火口湖など火山特有の景色を堪能できます。山頂からの眺めはまさに必見で、雲がなければ北アルプスはもちろん、御嶽山や白山、八ヶ岳などが360度ぐるりと見渡せ、自然の雄大さを肌で感じられます。山頂には「朝日権現社」と「乗鞍本宮奥宮」の祠が背中合わせに鎮座しています。比較的気軽に楽しめる山ですが、足元は岩が転がる箇所もあるため、油断せず慎重に進むことが肝心です。
剣ヶ峰まで目指さなくても、畳平バス停からすぐにアクセスできる山々があるのも乗鞍岳の大きな魅力です。富士見岳、魔王岳、大黒岳は、畳平からの標高差がそれほどないため、小さなお子様や体力に自信のない方でも気軽にチャレンジできます。
畳平から最も近く、階段が整備された歩きやすい道を約15分で登頂できます。頂上からは笠ヶ岳や焼岳、槍ヶ岳など北アルプスの峰々を一望できます。その名の響きとは裏腹に、小さなお子様連れでも登頂の満足感を味わえるゆるやかな山です。運が良ければ「神の鳥」雷鳥に出会えるかもしれません。

魔王岳の次に挑戦するのにおすすめの山で、畳平から約20分で山頂に到着します。槍ヶ岳や穂高連峰が見渡せるほか、道沿いには可憐なコマクサが迎えてくれることもあります。ご来光ポイントとしても人気があります。

大黒岳からの眺め
畳平から登山口まで10分、登山口から約15分(合計約25分)と短時間で登れる山です。山頂からは槍ヶ岳・穂高連峰、畳平のお花畑、鶴ヶ池などを見渡せます。コマクサの群生にも出会え、ご来光ポイントとしても人気です。時間と体力に余裕があるなら、これら4つのピークを全て踏破するのも素晴らしい経験となるでしょう。

富士見岳から望む畳平と鶴ヶ池
天空のお花畑と「神の鳥」との出会い
乗鞍岳は、登山だけでなく、高山植物や希少な動物との出会いも大きな魅力です。
- 可憐な高山植物の宝庫「お花畑」
- 特別天然記念物「雷鳥」との奇跡の遭遇
畳平バスターミナルから歩いてすぐの場所には「お花畑」があります。歩きやすい遊歩道が整備されていて、30分程で周回しながら高山植物の花々を楽しむことができます。コマクサ、チングルマ、イワギキョウ、トウヤクリンドウ、クロユリ、ハクサンイチゲなど、魅力的な花々に出会えます。
中でもひと際存在感を放つのが「高山植物の女王」と呼ばれるコマクサです。常に砂礫が動くような厳しい環境に単独で自生し、十数年かけて美しいピンクの花を咲かせます。空気中の水分を効率的に集めるためのギザギザとした葉や、地中深く広く伸ばす根など、その孤高で力強い生態は私たちを魅了してやみません。

乗鞍岳は、氷河期から命を繋いできた特別天然記念物である「雷鳥」の貴重な生息地でもあります。
日本では「神の鳥」とも呼ばれ、その姿を見つけると心に温かい灯がともるような喜びを感じるでしょう。1年の間に3度も衣替えをしたり、一生パートナーを解消しない一夫一妻制の習性があったり、冬には雪の中に潜って寒さをしのぐなど、その生態は非常に興味深いものです。絶滅危惧種に指定されている貴重な鳥であり、晴れた日よりも曇りの日の方が遭遇しやすいと言われています。もし出会えたら、追いかけたりせず、そっと静かに見守りましょう。
アクセスのしやすさ
乗鞍岳の最大の魅力の一つは、その圧倒的なアクセスのしやすさにあります。
バスで標高2702mの畳平バスターミナルまで到達できるため、3000m級の山でありながら「岳人入門の山」として人気を博しています。これは「バスで走れる標高としては日本一」の高さであり、雲上の絶景バスドライブ自体も大きな魅力です。
バスツアーにご参加いただくとシャトルバスへの乗換えなくスムーズに畳平バスターミナルまで行くことができます。
安全な楽しみ方
手軽に楽しめる山とはいえ、乗鞍岳は標高3000m峰であるため、油断は禁物です。山の天気は変わりやすく、平地とは気象状況が全く異なります。重ね着を基本とした服装で15℃以上の温度差や天候の変化に対応できるよう準備し、防風性のあるウェアや雨具は必須です。
また、水筒、行動食、熊鈴なども忘れずに持参しましょう。特に、バスで一気に高所へ移動するため、高山病には注意が必要です。頭痛や吐き気を感じたら、無理をせず休息を取りましょう。
乗鞍岳は中部山岳国立公園内に位置するため、自然を保護するためのルールを守ることも大切です。
植物や昆虫を採らない、野生動物に餌を与えない、ゴミは全て持ち帰る、そして登山道や木道から外れて歩かない、といった基本的なマナーを守り、この美しい自然を未来に繋いでいきましょう。
乗鞍岳は、壮大な山岳風景、豊かな高山植物、希少な動物との出会いを、誰もが親しみやすい形で提供してくれる稀有な山です。その「天空の世界」へ、ぜひ一度足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。













